国立極地研究所でおこなっている研究のひとつに、動物に装着したデータロガー(小型記録計)を用いるバイオロギング研究があります。動物の行動や生態、環境と動物の相互作用を中心に、さまざまな研究がおこなわれています。今回は、アデリーペンギン、アホウドリ、ウェッデルアザラシ、キタゾウアザラシの研究を紹介するために「バイオロギングタイプチャート」を作成しました。チャートに回答するだけで、あなたの知的好奇心を刺激するバイオロギング研究に出合えるはずです。

深海の中での採食行動が知りたい!

1. どんな動物?

体長は雄4.5メートル、雌2.8メートル、体重はオスの成獣で1,400~2,600kgにもなる最大級のアザラシの一種。オスの成獣は鼻が発達し、下顎より15〜20センチメートルほど垂れ下がる。北アメリカのカリフォルニア半島の島々に繁殖場があり、集団で繁殖と子育てをおこなう。雌を巡って雄が闘い、ハーレムを形成する。繁殖期のオスは絶食してハーレムを守る。参考:『海獣図鑑』(株式会社文溪堂)

2. 研究の成果
「ヒゲは水流センサー ~深海での餌採りに利用、キタゾウアザラシで初確認~」

ヒト以外のほとんどの哺乳類が持っている顔のヒゲは、自然界でどのように働いているかをバイオロギングによって明らかにしました。キタゾウアザラシは水深500メートルの深さまで潜って、小さな深海魚を頻繁に食べることが知られています。しかし、完全な暗闇である深い海の中でどのように餌をみつけているのかはわかっていませんでした。そこで極地研では、キタゾウアザラシの雌の左頬に小型ビデオカメラを取り付け、深海でのヒゲの動きと餌採りを記録しました。データを解析すると、キタゾウアザラシはヒゲで水の動きを感知して魚を探索・追跡・捕獲していることがわかりました。同じく深海で音を用いて魚を採るクジラとは異なり、キタゾウアザラシは魚が作る水流をヒゲで感知する方法を発達させたと考えられます。詳細: https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20220614.html

立派なヒゲを持つキタゾウアザラシの子供。(撮影場所:アメリカ・カリフォルニア州Año Nuevo州立公園、NMFS#23188)(安達大輝撮影)

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氷の下の潜水動物のすみかがどんな世界か知りたい!

1. どんな動物?

体長は雄2.5メートル、雌2.6メートル、体重は400〜450キログラムある南極で最もよくみられるアザラシの一種。主に魚やタコを食べて生活し、定着氷の上で出産や子育てをおこないます。しばしば、氷をかじって穴を開け、呼吸や氷上への出入口として用います。
参考:『南極大図鑑』国立極地研究所監修(小学館)、『海獣図鑑』(株式会社文溪堂)

2. 研究の成果
「アザラシによる観測で秋~冬の南極沿岸の海洋環境が明らかに」

2017年、南極・昭和基地でウェッデルアザラシ7頭に約8ヶ月間、水温塩分記録計(CTDタグ)を取り付けて調査をおこないました。CTDタグは、位置情報だけでなく塩分、水温、潜水深度を記録することができます。調査の結果、秋に外洋の海洋表層から暖かい海水(暖水)が南極大陸沿岸に流れ込んでいること、さらに、その暖かい海水を利用することで、アザラシが効率よく餌を採っていたことがわかりました。詳細: https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20211227.html

頭にCTDタグを装着したウェッデルアザラシ。装置は体重に比べて十分に軽く、一定期間後、体毛が抜け替わる時期に脱落する。(撮影:国立極地研究所 國分亙彦)

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野生動物が環境の変化にどのように対応しているか知りたい!

1. どんな動物?

中型のペンギンで、体長70センチメートル、体重3.7〜5.0キログラムあります。南極大陸の流氷帯に生息していて、オキアミや魚を食べています。夏に石を丸く敷いた巣を作り、2個の卵を産みます。オスとメスで交代で卵を温め、孵化した後は、交代で海まで餌を採りにいきます。参考:『南極大図鑑』国立極地研究所監修(小学館)

2. 研究の成果
「南極の海氷がペンギンの繁殖に影響するメカニズムを解明」

南極の昭和基地の近くで子育てをするアデリーペンギンの捕食行動を4シーズン(各シーズン12月~1月)にわたって調べました。海氷の張ったシーズンでは、ペンギンは氷の上を歩いて移動し、割れ目をみつけて潜水していました。しかし、海氷のなくなったシーズンでは、ペンギンは海を泳いで移動し、広い範囲で潜水していることがわかりました。さらに、一回の潜水時間も短くなり、捕らえるオキアミの数も増えました。効率よく獲物を捕ることができるようになった結果、親鳥の体重が増加し、雛の成長速度と生存率が上昇することがわかったのです。詳細: https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20200625.html

ビデオカメラを背中に、加速度記録計を頭にそれぞれ取り付けたアデリーペンギン。生態に影響しないよう機器はテープですばやく固定し、数日で取り外した。(撮影:国立極地研究所 渡辺佑基)

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人間が海へ流してしまうゴミと渡り鳥の関係を知りたい!

1. どんな動物?

アホウドリはミズナギドリ目アホウドリ科に属し、子育てする以外は一生を海の上で過ごす海鳥です。翼は213〜229センチメートル、体重は4〜5キログラムあります。アホウドリ科には22種がいますが、そのうち3種だけが北半球にすんでいます。この3種の中で、伊豆諸島の鳥島で繁殖するクロアシアホウドリの研究を極地研ではおこないました。参考:山階鳥類研究所

2. 研究の成果
「海鳥の目線で海洋ゴミの分布とアホウドリへの影響を調査
~採餌海域内にゴミ、誤食を懸念~」

クロアシアホウドリは、餌であるイカや魚などを探すため、外洋の広範囲を移動しています。しかし、遠く離れた外洋域では調査がおこなわれておらず、ゴミの影響がわかっていませんでした。そこで極地研の研究チームは、クロアシアホウドリ13羽にGPSとビデオカメラを取り付けて調査をおこないました。結果は、約7割の鳥が、発泡スチロールやプラスチック片、漁網などの海洋ゴミに遭遇していたことがわかりました。また、ゴミをついばんでいる様子も撮影され、本当の餌を食べるチャンスが減ってしまっている可能性があります。詳細: https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20210709.html

子育て中のクロアシアホウドリPhoebastria nigripes(左図)と腹部にビデオ記録計(矢印)を装着したクロアシアホウドリ(右図)。記録計を安全に取り付けるために、頭部に布をかぶせている。調査後の記録計は、クロアシアホウドリに影響を与えることなく取り外すことが可能。(撮影場所:伊豆諸島鳥島)(撮影:西澤文吾)

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編集:服部円、 監修:國分亙彦(極地研 生物圏研究グループ 助教)