部分的に黒い溶融被膜で覆われ、ところどころ暗緑色の輝石が見られる。 右側に写る黒いキューブは1㎝角。

隕石を眺め、愉しむ、癒しの時間。国立極地研究所・南極隕石ラボラトリーの中藤亜衣子・学術支援技術専門員が、1万7,000個以上の南極隕石コレクションの中から、個性あふれる隕石を紹介していきます。

流れ星として地球に届けられる隕石は、私たちが手に入れることができる宇宙からの貴重な贈り物です。南極隕石ラボラトリーは、世界有数の隕石キュレーション施設として、総数1万7,000個以上の南極隕石コレクションを誇っています。ここでは南極地域観測隊の集めた隕石試料が、重量やサイズ計測、写真撮影、分類などが行われた後、温湿度管理された隕石保管庫(下)の中で大切に保管されています。

極地で採取した隕石を保管している隕石保管庫。全ての隕石には番号が割り振られています。写真:山中慎太郎(Qsyum!)

隕石保管庫に入ってすぐ右側には展示スペース*1が設けられ、ラボを訪れる学生や研究者などが見学することができます。その中で特に目を引くのが、今回ご紹介するYamato 000593です。極地研の特別公開でも毎年展示しているので、既に目にしたことがある方もいるかもしれません。この隕石は第41次南極地域観測隊により南極やまと山脈付近で発見された火星隕石で、ナクライトという火星隕石の種類では世界最大サイズ。なんとその大きさはラグビーボールほどあります(29x22x16㎝)。ナクライトは隕石の中でも貴重な種類であり、Yamato 000593は世界で4例目、南極産ナクライトとしては初めての発見でした。発見当時の様子を当ラボの今榮直也助教に聞くと「氷の上で緑色が映えていた。見たことのない隕石だ!と思った」と教えてくれました。地球大気圏に突入する際に外側が溶けてできた黒い溶融被膜に覆われ、その隙間から主な構成鉱物である普通輝石の暗緑色が覗いています。見ているだけでも大迫力で、とても美しい隕石です。

氷上のYamato 000593(41次隊)採取時には氷に直接油性ペンでフィールド番号を書いて記録する。極地研に持ち帰ったあと、正式な隕石名が付与される。

これまでの研究から、Yamato 000593には水と反応してできる粘土鉱物が含まれていることが分かっています。その水の成分は地球上の水とは異なるため、かつて火星に水が存在したことを示唆する証拠の一つとされています。隕石は私たちが宇宙の謎に迫るための重要な手がかりであり、火星の過去や太陽系の歴史を解き明かすための重要な役割を果たしています。

*1 一般の方向けの展示スペースではありません。

<次回は、2024年4月23日に公開予定です>

中藤亜衣子(なかとう・あいこ)
中藤亜衣子(なかとう・あいこ)

国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー 学術支援技術専門員。「炭素質コンドライト母天体の熱進化」をテーマに隕石研究に取り組んできました。専門は惑星物質科学。今は隕石の聖地、極地研にて毎朝隕石庫の隕石たちを眺めるのが癒しの時間です。