学校の授業で幾度も耳にする気候変動。でも、その根拠となるデータを自分の目で確かめてみたことはありますか? 国立極地研究所が開発した「北極域データアーカイブシステム(ADS)」のVISHOP「極域環境監視ウェブサイト」を使えば、北極の海氷の大きさをリアルタイムでみることができたり、過去のデータと比較したり、グラフを作成したりすることができます。ぜひパソコンやスマートフォンからアクセスしてみてください。
北極域データアーカイブシステム(ADS)とは?
北極域データアーカイブシステム(ADS: Arctic Data archive System)は2011年に国立極地研究所(以下、極地研)が極地の研究データの公開と共有のために開発したサイトです。北極と南極で観測したデータを、研究者だけでなく誰でも使えるよう無料でオンライン上に公開しています。日本国内だけでなく国際データネットワークと双方向に接続しており、世界中の研究者が使うことができます。ADSは極地の観測基地や観測船、衛星観測などから得られた膨大なデータを研究や社会へ還元する、いわば日本が誇る「極地のビッグデータ」を扱うデータセンターなのです。
北極域データアーカイブシステム(ADS: Arctic Data archive System)https://ads.nipr.ac.jp/
ーどんな人が使っている?
極地に関わる研究者だけでなく、学生(高校生、大学生、大学院生)や一般の方にも広く使われています。また新聞やテレビなどのニュースで扱われる極地のデータはADSをもとに作成されていることもあります。パソコンやタブレットだけでなくスマートフォンからも操作しデータをダウンロードすることができます。
ーどんなデータを調べられる?
北極・南極でおこなわれた研究プロジェクトや課題の情報、北極や南極の海氷の大きさや積雪量、海水面の温度、氷がいつできたかという海氷齢、南極で採取した岩石のデータベース、海氷域の情報をもとにした最適な北極海航路などを、さまざまなアプリケーションを用いて調べることができます。数値データだけでなく、データをもとにしたグラフや写真、動画などを作成しダウンロードすることも可能です。
ー古いデータも見ることができる?
例えば、北極・南極の衛星データは1979年からのデータが公開されています。 今もリアルタイムで最新のデータを更新しつづけています。また現在公開しているデータセットは1667(2024年3月現在)ですが、現在観測しているデータも随時登録されていく予定です。
ーADSにはどんなアプリケーションがある?
収集した膨大なデータを活用するため、ADSでは主に3つのサービス(KIWA、VISION、VISHOP)があります。KIWAはデータ検索・管理システム、VISIONは衛星データなど1次元〜3次元のデータを可視化して直感的に表示するアプリケーション、VISHOPはJAXA(宇宙航空研究開発機構)から提供された衛星データを使用した、極域環境をリアルタイムにモニタリングするツールです。
KIWA
KIWAは、北極・南極でおこなわれた研究プロジェクトや課題を地球儀にプロットして可視化しています。1,500件を超える取り組みとそのデータを、地図やキーワードに紐づけて調べることができます。どの場所で何がまだ取り組まれていないか、新しい研究のヒントを探ることもできます。
VISION「オンライン可視化解析ツール」
VISIONは、海面水温や海面風速、土壌水分量、海氷齢や積雪深など、JAXAの衛星に搭載された観測センサを始めとしたさまざまなデータを可視化したり、グラフ化できます。ブラウザ上で直感的な解析が可能です。
VISHOP「極域環境監視Webサイト」
VISHOPは、極域環境監視モニターのこと。北極・南極の海氷密接度や海氷の厚さ、海氷流動の時系変化を見ることができます。地球温暖化によって氷が減っていることは、データやニュースの情報だけでは実感しにくいことです。VISHOPでは、さまざまな観測データをビジュアル化することで、海氷面積の増減などの傾向を可視化しています。
ADSのVISHOPを使ってデータの作成にチャレンジしてみよう!
※ 作業をおこなう前のお願い:画像やデータのダウンロードは自分のパソコンやスマートフォンでおこなってください。使用できるのは1979年以降のデータになります。方法は、こちらのPDFを参考にしてください。
今回は ① 北極の海氷は減っているの? ②南極の海氷は減っているの? という2つの問いについて、ADSのデータと向き合ってみるワークです。簡単に言い切れるわけではない、複雑で難しい問いですが、地球温暖化の時代にあって、今まさに研究者たちが懸命に分析をしています。その一端となるデータをみてみましょう。
問題① 北極の海氷は減っているの?
北極の今日の海氷面積と1980年代、2000年代の平均海氷分布を比較してみましょう。 最も分布の差が顕著なのは、何月でしょうか?(衛星画像で比べてみましょう)
【方法】
- ADSのサイトから「VISHOP」ページ( https://ads.nipr.ac.jp/vishop/#/monitor )をクリックする
- タブ[Monitor View]を選択 ・[指定日検索]から今日の日付を選択する。または[最新]をクリックする。
- [重ね合わせ画像選択]で、1980年代平均海氷分布と2000年代平均海氷分布 を[ON] にする。
- [指定日検索]のシークバーを左右に動かして、変化をみる。
- [指定日検索]の巻き戻しボタンを押し、過去のデータに遡って変化をみる。
【回答】
9月
【解説】
- 北極は過去30年間で地球温暖化の進行とともに、海氷面積が減少しています。
- 北極の海氷面積は、毎年9月をピークに小さくなります。観測史上最も面積が小さくなった日は、2012年9月15日です。1980年代平均と比較して約300万平方km以上小さくなっています。日本の国土面積の約37万平方kmと比較すると、減少した大きさがわかります。
- 地球温暖化の進行によって、北極にどのような影響があるのか、調べてみましょう。
→ 北極域研究加速プロジェクト(ArCS II: Arctic Challenge for Sustainability II)
では、南極の海氷面積も、同じように温暖化の影響で急激に減っているのでしょうか?
問題② 南極の海氷は減っているの?
南極の海氷面積の減少傾向を確かめてみよう。
観測史上最小面積は何年でしょうか?(グラフで比べてみましょう)
【方法】
- タブ[Extent Graph]を選択する。
- [領域選択]で[南極]を選択する。
- [グラフオプション]で[年別グラフ]を選択する。
- [グラフラベル]で、[年最小値]をONにする。[年平均]をOFFにする。
- 年別の海氷面積最小値の推移をみてみる。
【回答】
2023年
【解説】
- グラフ右端、2023年に最小面積を更新していることがわかります。
- [年平均]をONにしてみると、2014年以降、南極の海氷面積の平均値は減少傾向にあることがわかります。
- 北極は長期的かつ劇的な減少が見られる一方で、南極の海氷面積の急減が長期的な傾向かどうかは、まだよくわかっていません。
- 海氷面積の傾向は大気と海の間の熱交換によって増減し、風や海流によって漂流したり、厚さや表面状態によっても変わります。
まとめ
「北極・南極の氷は減っているのか?」といった問題は複雑で多くの要因が絡んでいます。積み重ねられたデータをもとに、さまざまな知見をもった人たちが協力して、新しい研究を進めることが重要です。みなさんもぜひ極地研のADSを活用して、自分なりの予測や考えをふくらませて、面白い研究にチャレンジしてみてください。
ADSでは、他にも北極や南極にかかわる教育向けコンテンツも紹介しています。
北極・南極 for Education (https://ads.nipr.ac.jp/education/)
- 矢吹裕伯(やぶき・ひろのり)
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国立極地研究所 国際極域・地球環境研究推進センター 特任教授。ADS推進室長。名古屋大学大学院 大気水圏科学専攻にて博士号(理学)取得後、海洋研究開発機構に勤務。その後国立極地研究所で、北極域に特化したデータセンター基盤作成のため、2011年よりADSの開発を始める。研究者が思いつかないようなADSの面白い使い方を募集しています!
取材・原稿:国立極地研究所、服部円