アデリーペンギン(換羽)

南極にカメラを持っていく全てのプレイヤーに向けて。山口真一・第64次南極地域観測隊広報隊員が、極地での写真撮影のコツやエピソードをお伝えします。

掘削ポイントとして湖の水深の深い場所を探す様子。昭和基地からおよそ南方向へ10キロメートルほど離れたルンドボークスヘッタという露岩域の丸湾大池にて。

今回は撮影技術のお話です。この写真の撮影場所は、ルンドボークスヘッタという昭和基地より南方に約100キロメートルの位置にある露岩域で、南極氷床の断面が見えるのが特徴です。64次隊の地形チームが丸湾大池の湖底の堆積物を採取するため掘削ポイントを探しているところを撮影しました。この時は掘削ポイントを探す3人と、ベースキャンプ地から池の近くまで荷物を運ぶ2名に分かれて行動をしており、荷物運びがひと段落して休憩しているときに撮ったものです。

遠くのものを撮影するための望遠レンズには「圧縮効果」というものがあります。これは実際には離れている被写体の遠近感が少なくなるというものです。撮影位置から隊員のいる位置まではおよそ500メートル、背景の氷床までは700~800メートルくらい離れているのですが、氷床が目の前に迫っているように撮ることができます。使用したレンズは、焦点距離100-500mmのズームレンズに2倍のテレコンバーター(レンズの焦点距離を伸ばす追加レンズ)を組み合わせ、焦点距離を1000mm相当にして撮影をしました。レンズは高額でしたが思い切って買った甲斐がありました(笑)

望遠レンズの作例。復路の「しらせ」での海底圧力計の回収。作業の邪魔にならないように、飛行甲板近くから撮影。圧縮効果により、観測隊員と「しらせ」乗員の距離が近く感じるため、写真に一体感が出ています。(もちろん、実際もチーム一体で作業していました)

昭和基地のAヘリポートでの輸送作業を、150メートルほど離れたBヘリポート前から撮影。ダウンウォッシュによる小石等の飛来も心配しなくて良いというメリットもあります。

基本は遠くのものを撮影するためのレンズなので、動物を撮る場合にも使います。

<次回は、2024年5月7日に公開予定です。>

山口真一(やまぐち・しんいち)
山口真一(やまぐち・しんいち)

名古屋港ガーデンふ頭に係留している南極観測船「ふじ」の学芸員。2代目南極観測船の展示の企画や資料の保存、来館者のガイドなどに取り組んでいます。第64次南極地域観測隊に広報隊員として参加し、南極観測の公式記録の撮影のほか、ブログや交流サイト(SNS)の記事執筆などに取り組みました。