第54次南極地域観測隊が、ベルギー隊(BELARE)と合同で、南極セール・ロンダーネ山地南方のナンセン氷原で隕石探査を行った際の様子。その際にみつけた最大18kgの石質隕石。種類は「普通コンドライト」と考えられています。

南極は地球で一番隕石が採れる場所です。これまでに南極で発見された隕石は47,000個以上(世界の隕石の60%)におよび、月や火星からきた隕石も含まれます。南極の隕石から何がわかるのか、隕石キュレーターの山口亮准教授が解説します。

山口亮(やまぐち・あきら)
山口亮(やまぐち・あきら)

国立極地研究所地圏研究グループ准教授、南極隕石キュレーター。南極隕石ラボラトリー責任者。東京大学博士課程卒業後、ハワイ大学マノア校惑星科学科、無機材質研究所(現物質・材料研究機構)を経て現職。惑星科学・隕石学の国際誌Meteoritics & Planetary Scienceのアソシエイトエディター、国際隕石学会フェロー。第54次南極地域観測隊の夏隊でベルギーとの共同隕石探査に参加。

南極でみつけた隕石が集まる場所

ー国立極地研究所(以下、極地研)で隕石の研究が始まった経緯を教えてください。

1969年に第10次南極地域観測隊が南極で9個の隕石をみつけたことから研究がスタートしました。持ち帰った隕石を調べてみると、9個ともそれぞれ異なるタイプの隕石だったんです。そこから、宇宙から落ちてきた隕石が南極氷床で特定の場所に集まってくるという“集積機構”に気がついたんです。そして、多くの隕石を採集することができるようになり、いろいろな隕石を分析して調べることで研究が進むようになりました。

ー隕石の何を測っているんですか?

顕微鏡などを使って組織を観察したり、分析装置で「化学組成」を測ったりしています。これらを調べることで、隕石や天体の歴史をひもとくことができます。例えば、隕石の成り立ちからその天体がいつ頃できたものなのか、いつ小惑星と衝突したのかといったこともわかります。

ー実際に測って気がついたことは?

思っていたよりも複雑だということです。単に小惑星がぶつかり破片が地球に落ちてきたということではなく、もっと別の衝突の影響を受けてきた可能性がある場合もあります。まるでパズルを解き明かしていくイメージです。解析についても、さまざまな手法を使うようになってきました。より細かい鉱物の組成をみたり、専門家に協力してもらい放射性同位体を用いて年代測定をしたりしています。そもそも隕石はどこから落ちてきたのかわかりません。昔あった天体が割れて隕石として落ちてきたわけですが、その元の天体はもうないかもしれない。例えば100ピースで完成するパズルを、たった1ピースしかない状態で解き明かしていくわけです。新たにみつかったピースとすでにあるピースをつなぎあわせることもあり、想像力や推理力が必要な作業です。

氷河による南極隕石の集積機構の概念図。南極の氷の上に落ちた隕石は降り積もる雪によって氷の中に閉じ込められ、少しずつ氷とともに海岸に移動します。山脈などがあると隕石だけがとどまり、隕石の上の氷が融けたり昇華することで氷の上に現れるのです。この仕組みを隕石の集積機構と呼びます。

宇宙から地質学へ

ー山口准教授は幼い頃から隕石の研究をしたかったのですか?

ストーリー的には、小さい頃から〇〇に夢中になっていて、今その〇〇を研究していますといったほうがいいですが、多くの研究者は偶然辿り着いた場合が多いんじゃないかな(笑)。小さい頃に思い描いたなりたいモノに、普通はなれないんですよ。漠然と宇宙に関する仕事をしたいなとは思っていたのですが、たまたま地学科に行きました。大学院で宇宙のことを研究できる学科に入ったのですが、それも学部の先生が大学院の先生と知り合いだったという偶然です。学位を取得後、ハワイ大学にいったのも、たまたま職が募集されていたからです。偶然が重なって、隕石の研究をするために極地研にやってきたんです。

ーそもそも宇宙に興味を持ったきっかけは?

子どもは誰でも宇宙が好きですよね。ちょうど小学生の頃、NASAの火星探査計画が盛り上がっていて、「探査機バイキング」の火星探査がニュースになって目にしていたことも影響したかもしれません。みんな宇宙に興味を持っていたと思いますよ。

南極・北極科学館に展示されている「Yamato 000593」。1,200万年前に小惑星との衝突により火星から飛び出し地球に降ってきた隕石。火星探査機「バイキング」が採取した火星の大気データと隕石に含まれるガスの組成が一致したことで火星が起源であることがわかりました。

ー実際に南極に赴いて隕石の収集をおこなったんですよね。

1度しか参加していませんが、54次隊で隕石探査をおこないました。隕石が集まっているところは氷が融けたり昇華したりして流れつく場所が大体決まっていて、スノーモービルでその場所まで行って拾ってきました。でも隕石の研究は顕微鏡などいろいろな装置が必要で、南極の基地でやれることはあまりないんです。

山口准教授が参加した54次隊では、ベルギーとの国際共同オペレーションとして、セール・ロンダーネ山地・ナンセン氷原での隕石探査をおこない、総重量約75kg、420個の隕石を採集しました。
ナンセン氷原からセール・ロンダーネ山地を望む様子。写真では遠近感がわかりにくいですが、山地は標高1,000~3,000mの岩山からなり、四国とほぼ同じ面積。 広大な雪面をさらうようにして隕石を集めています。

実験して隕石を再現する

ー隕石をどのように測定するのですか?

南極で採ってきた隕石は研究室に持ち帰って解析します。冷凍状態なので、そのまま室内にもってくると結露してしまうんですね。そこで、フリーズドライにして乾燥させます。これは地味な作業なのであまりみんなやりたがらないんですが(笑)。

隕石を室温にする作業の様子。低温室(−20℃)で、凍った隕石をアクリル製の真空デシケーターに入れます。室温環境下に移動し、真空ポンプにより減圧。半日から一日間、乾燥(フリーズドライ)させます。

その後、隕石を薄くスライスし鏡のように磨きあげ、走査電子顕微鏡、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer: EPMA)で分析します。レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)などで分析をすることもあります。  

ーどんな隕石が多いんですか?

隕石のおよそ80%は「普通コンドライト」と呼ばれる隕石です。歴史的にみるとよくみつかっているから「普通」といわれます。探査機はやぶさがサンプルを持ち帰った小惑星イトカワは「普通コンドライト」の母天体(その隕石の起源とする天体)です。他方、はやぶさ2の目的地である小惑星リュウグウは、希少種である炭素質コンドライトの母天体で、主に粘土鉱物からなります。南極でも似た隕石はみつかっていますが焼かれたようなものが多いです。その焼かれた状態を再現するために、実験的に隕石を焼いて比較している研究者もいます。

ー採取した隕石を研究所で焼くんですか?

単に成分を分析するだけでなく、焼いたり溶かしたり衝撃を与えたり、実験手法を用いておこないます。また、秒速1〜2km程度の弾丸の出る銃を使い隕石に衝撃を与えるという実験をおこなったこともあります。大きな衝撃が当たると石の組織が崩れたり溶けたりします。その様子を実験で再現し、天体にどれくらいの衝撃が当たったかを予想するんです。

また、最近はコンピュータを用いてシミュレーションすることも増えてきました。太陽系のそれぞれの天体の速度や集積速度を計算したり、どんな天体がどんな場所にあったかを推定することもできます。よりグローバルな視点で太陽系全体の仕組みを解析するようになってきているんです。

ー測り方も時代とともに変わってきているんですね。

技術の進歩とともに機器の精度もあがってきて、最近では数ミリから数十ミリグラムあれば分析できるようになりました。JAXAの「はやぶさ2」がリュウグウで採取した試料は、極地研に60ミリグラムが配分されました。米の粒で言えば、2〜3粒程度です。それでも十分すぎるほどです。たった数ミリグラムであっても、電子顕微鏡を用いて1,000〜2,000倍に拡大すると広大な平原が広がっています。正直、広すぎて分析しきれないほどです。

分析のために隕石を切断することができるダイヤモンドワイヤーソー。水などの液体を使わなくていいのが特徴です。粉塵が飛ぶためアクリルで覆われ、掃除機のような吸引バームも付いています。
スライスした隕石を樹脂で固めて薄く切って磨いて光学顕微鏡で観察する。隕石の組織をわかりやすくするために偏光版を用いているため万華鏡のようにカラフルに見えます。
細く絞った電子線を鉱物に当てて組成分析する電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer: EPMA)。分析データと、専門的な観察に基づき、隕石の分類がおこなわれます。
より詳しい組織解析をするために用いるのが、この走査電子顕微鏡です。

隕石から惑星の起源を探る

ー南極に落ちてきた隕石と宇宙で採取した試料を調べる際に違いはありますか?

似ている点もありますが、違う点もたくさんあります。探査機で小惑星に行って採取した試料を用いる調査は、もちろん、どの小惑星の試料か、その惑星のどの場所から採ってきたのかがよくわかっているので、地球の地質学と似ています。また採取した環境のまま保管できるので、地球の大気や水の影響を受けていないとても新鮮な試料といえます。

一方、地上で採取された隕石はどこから来たかわかりません。地球の水や空気の影響を受けていたり、地球の物質が混ざってしまうこともあります。でも太陽系のあらゆる場所から落ちてきているので、バリエーションは桁違いに豊富です。60〜70個以上の小惑星、そして、月や火星など大きな天体から来ているといわれています。よって、隕石は太陽系のさまざまな場所から来た試料と比較することができます。砂漠でも隕石は多くみつかりますが、南極の隕石は氷の中に沈んでいるので100万年以上昔の古い隕石が出てくることもあります。

1986年に、やまと山脈で発見された月隕石「Yamato 86032」。約44億年前にできた、月の高地を構成する岩石です。鉄やトリウムの量が少ないことから、これらの元素に富んでいる月の表側(地球から見える面)ではなく、地球側から見えない裏側から来たと考えられています。南極では日本隊が9個、アメリカ隊が7個の月隕石を発見しています。
南極で採取した隕石を保管している隕石保管庫。クリーンルーム仕様で、温度20℃、湿度50%以下に保たれています。
隕石倉庫の棚には1万7,000個以上の隕石が収蔵されています。隕石ごとに名前(採集地の略称と番号の組み合わせ)が割り振られ、袋にいれて保管されています。研究や博物館での展示のために、この倉庫から貸し出しすることもあります。
南極で採取した隕石を分類し研究者に貸し出すために作成する隕石カタログ。撮影した写真を掲載するカタログもあれば、文字情報だけのカタログもあります。カタログ自体は未販売。電子媒体のニュースレターはウェブ上で公開されています。隕石学会の国際隕石学会のデータベースから調べることもできます。

集めた隕石をカタログにする

ー隕石の研究はチームでやることが多いですよね。

それぞれ専門があるので、みんなでやったほうが早いんです。特に小惑星探査試料の解析は100人以上でおこなうこともあります。試料を分けて一斉に解析をすると1ヶ月程度でデータを集めることもできます。もちろん日本だけでなく、世界中の研究者と同時に解析することもあります。競合チームに先に出されてしまうこともあり、科学の世界ではスピードも大事なんです。

ー隕石キュレーターとはどういう仕事ですか?

隕石の管理責任者です。具体的には、隕石の写真を撮影し、成分を分析してリストを作ります。いわば商品カタログみたいなものですね。研究者は、そのカタログを見て、この隕石を使って何を研究したいかという目的や必要な量、分析方法などを申請します。その書類をもとに、隕石キュレーターが適正な量なのかといったことを判断し、試料を研究者に配分するんです。貴重な試料ですから、1グラム必要だといわれても、本当にその分析方法で1グラム使うのかどうか確認する必要があります。多めに申請する方が多いですね(笑)。過去の研究実績などを見ながら適切な量に調整していきます。

ーさまざまな隕石に触れられるカタログ作りは面白そうですね。

数がとにかく多いので大変な作業です。興味を惹く隕石があったとしても、いちいち立ち止まっていたら整理が終わりません。ひたすら写真を撮って分析し、リスト化していく。地味な作業です。分類は研究の基礎で知識も必要です。

分類が上手くなるにはひたすら数をこなすしかありません。基本的な作業は1カ月もあればできるようになりますが、本当に新しい発見は経験と独特な視点がないとできない。分類していると「分類できないモノ」がでてくるんです。私もまだ苦手な隕石があります。99%はできますが、残りの1%に到達するにはトレーニングを続けるしかないんです。

また、私は他の研究所のコレクションから「分類できないモノ」をみつけるのも得意です。数をたくさん見ていると段々見えてくるものがある。そこから研究のアイデアをみつけることもあります。

ー隕石の研究をしてみたい学生にアドバイスはありますか?

研究者になるにはいろんなルートがあり、万能選手である必要はありません。自分の能力に合ったところに辿り着けばいい。宇宙関係だけでなく、地質系でもいいし、電子顕微鏡などの分析系でも良い。プログラミングが得意ならそれもいい。モノを見たいのならサンプルをしっかり持っている研究所に行くのもひとつの方法でしょう。もし興味があればチャレンジしてほしいです。

写真:山中慎太郎、国立極地研究所アーカイブ、取材・原稿:服部円