南極・ボツンヌーテンでの地質調査

南極の地質屋稼業とは。それは自ら現場に赴き、現場検証そして連行すること。そこに岩石がある限り。

まずは現場検証である。地球の事件現場はもちろん世界中にあるのだが、広大な南極大陸は97パーセントが氷に覆われており、その下の岩盤にアクセスできないことは大きなデメリットだ。一方で、南極には植生がなく、岩石の露出が非常にいいこと。また国境がなく危険な動物がいないことや、暴動や政変がないことなど、地質屋にとってはありがたいメリットもある。実際の現場の状況を見てみよう。

現場に入ると、まずはそこに露出する岩石の種類や地層の構造を調べる。以下の写真は、私が南極の昭和基地付近で地質調査(つまり現場検証)で遭遇した一例である。

岩石の種類は様々であり、見慣れない鉱物があったりすると石をハンマーで割り、フレッシュな面をルーペ(虫眼鏡)で観察する。「あれ、これは一体何が起きたんだ?」と思ったら、足を止め石に問いかける。
A:周りの茶色っぽい岩石の中に、黒っぽい異質なブロックが挟まっている。
「お前、いったいどうやってここに来た?」
B:こちらも黒い帯のような石が挟まっているが、黒い石は途中で分断されている。
「お前、いったい何があった?」と問いかける。
C:周りの石の鉱物は細かいのに、こいつだけ成長がいい。
「なぜお前だけ大きくなった?」
D:赤い鉱物の周りが白っぽい層で取り囲まれている。
「お前の周りの白いものはなんだ?なぜ囲まれている?」

こうした問いかけに石はもちろん現場で答えてはくれない。あとは聞き出すだけだ。となれば問答無用で連行(サンプリング)して、持ち帰って取り調べる。当たり前ではあるが、私たちの身の回りには様々な石があり、それぞれが生い立ちを持っている。それらがどうやって今目の前にあるのか、私たちは石から聞き取っていく。

<次回は、2024年8月13日に公開予定です。>

本吉洋一(もとよし・よういち)
本吉洋一(もとよし・よういち)
1954年千葉県生まれ。国立極地研究所名誉教授。南極暦は第23次隊(1981-82)を皮切りに合計11回参加。第42次、第51次、第58次では観測隊長を務める。専門は地質学。南極をはじめ、スリランカ、インド、南アフリカ、オーストラリア、カナダなど、主に大陸地域の地質や岩石の研究に従事。