南極や北極の研究者を目指すなら、どの大学院を選びますか? 日本にはいくつかの選択肢がありますが、その一つが「総合研究大学院大学(以下、総研大)」の「極域科学コース」です。総研大は、日本の研究機関が連携して構成する大学院大学で、最先端の施設を活用しながら研究を進めることができます。極域科学コースでは、南極・北極に関する幅広い分野を学び、研究者としての視野を広げることができます。極域科学コース長、在学生によるリレー連載形式で、極域科学コースを紹介していきます。

- 今木俊貴(いまき・としたか)
- 総合研究大学院大学複合科学研究科極域科学専攻博士課程4年。大阪府出身。日本学術振興会特別研究員(DC1)。アデリーペンギンを対象として、集団を形成する動物の採餌戦略について研究している。第65次・66次南極地域観測隊に同行者として参加。趣味・特技はお笑いで、昭和基地で落語を披露した経験がある。
「お金がいくらかかってもいいなら、ペンギンで何がしたい?」
4年前、入学前の打ち合わせで、現在の指導教員に言われたことです。「うわっ、試されているな」と思いましたが、同時に、ここに入学したいという思いが芽生えたのを憶えています。
私は研究生活の醍醐味は「試されること」にあると感じています。研究というものは人類がまだ獲得していない知識を世に生み出す行為であり、「普通の人にはできないことをする」というのはその第一歩のように思えるからです。そして極域科学コースに在籍していると、そういった機会に恵まれます。今回はペンギンを研究する大学院生として、大学院生活について、「試練」という視点からご紹介します。
まずはフィールドという試練。私は二回、南極で調査に参加しましたが、ここでは40泊の風呂なし生活を余儀なくされました。加えて調査地までの数キロメートルの距離を、時に風が吹きすさぶなか往復しなければなりませんでした。さらに、コミュニケーション能力も重要でした。調査のためには多くの人の手を借りる必要があり、逆に空いている時間は他のチームに力を貸すことが求められるからです。
そして、解析という試練。調査は研究生活のごく一部でしかなく、ほとんどの時間は実験やデータ解析、論文執筆に当てられます。私が学んでいるバイオロギングという分野では、動物に取り付けた記録計によってその生態や生理、そして周辺の環境について調べるのですが、数十時間分のビデオを見たり、数百時間分の潜水記録と格闘したりすることもしばしばあります。それでも、ほとんどの解析は「当たり前の現象の再発見」に終わります。しかし、そんな中で「これは面白いぞ」といえることに出会える喜びは、他では決して体験できないものだと感じます。
ちなみに最初の質問に対して、私は咄嗟に「群れの研究がしたいです」と答えました。その後、幸運なことに、ペンギンの集団行動について論文を出版することができました。試練も多いですが、その分学生に任せてやりたいことをやらせてもらえる大学院だと感じます。そういった環境に身を置きたいと思う方は、是非総研大の門を叩いてみてください!<総研大「極域科学コース」って?完>

【連載】総研大「極域科学コース」って?(全4回)
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