多い時には月数回!? 世界各国で行われる国際会議やシンポジウムに参加している榎本副所長。今回は、F1モナコGPやリゾート地として有名なモナコ公国で開催された極地変化に関する科学のシンポジウム「北極から南極へ」に参加した時の様子について語っていただきました。
今回のシンポジウムのテーマは「極域科学に対する、将来の共同研究を考える」。若手も含めて、何が課題で何をやるのか考えようということでした。
実は、両極の25年ごとの活動であるIPY(国際極年)が2032年にくるので、ここへ目掛けて何をするか各国の研究者たちは考え始めたんです。また、2025年には今後の10年の北極研究の長期プランを考えるIASCの検討会が開かれます。日本では北極研究者が200人近く集まって、日本の北極研究の将来構想を書いた『北極域の研究』という本を2024年2月末に出版しました。その構想を日本がもっていると、国際的な会合で次の10年から20年で行うべき北極環境研究に関する現状分析や将来とるべき方針を提案しやすいので、 その本から抽出して会合に臨もうとしています。この本は共通の財産として他の人の考えもわかるので、国際会議にもその人に代わって構想を提案することもできます。
最近では、各国でローカルなシンポジウムが活発に開催されており、2024年もアイスランドやベルリンなどで開催されています。それぞれの国や分野には独自の考え方がありますが、これらはすべて共通のテーマでつながっています。そのテーマとは、「将来的に重要な課題について考える」。そして、どのシンポジウムでも必ず若手の育成が重要な課題として組み込まれています。
今回のモナコでのシンポジウムも、こうした動きと密接に関連しています。今参加している若手研究者たちが、何十年後かに「あのとき議論したことが、とうとう実現している」と感じる日が来るでしょう。若手も含めて一緒に考え、意見を交わし、ディスカッションを重ねるというのはとても大事なことなのですが、一方で長期的に国際的なチームプレイを続けていくことは、難しいこともあります。
<次回は、2025年1月16日に公開予定です>
- 榎本浩之(えのもと・ひろゆき)
- 国立極地研究所副所長、北極観測センター特任教授。専門分野は雪氷学、気象学、リモートセンシング工学。1983年に北海道大学工学部を卒業後、筑波大学で修士号(環境科学)、スイス連邦チューリヒ工科大学で博士号(自然科学)を取得。国際北極科学委員会の Vice-President(副議長)も務めている。