会議会場の海洋博物館の入り口を入ったところ。極地に関するポスターが所狭しと掲示してある。ここは休憩時のコーヒーブレイクの会場になる。ここでも議論は続く。

多い時には月数回!? 世界各国で行われる国際会議やシンポジウムに参加している榎本副所長。今回は、F1モナコGPやリゾート地として有名なモナコ公国で開催された極地変化に関する科学のシンポジウム「北極から南極へ」に参加した時の様子について語っていただきました。

地球温暖化や環境変化など、どう取り組んでいこうかという話になると、まず真っ先に出てくるのは国際協力なんですよね。今回のシンポジウムでも、いろんなテーブルで話題になりました。

例えば、インフラの整備や、基地、船、人工衛星などを、どうやってそろえていくのか。もちろん全部の国が持てるわけではないから、みんな共有して相互に乗り入れして使えるようにできないかという話も出ましたね。ひとつの国だけでは観測できる範囲が限られてくるし、何よりお金もかかるんですよ(笑)。だから、「協力しましょう」というのが基本的なストーリーなんですよね。

その点、ヨーロッパはEUがありますから。EU加盟国からお金を集めて、EUの中でひとつプログラムを作ると、大きなことができる。シンポジウムでも、共同プログラムを作ってきていてアピールしていましたね。一方で、アメリカは一国でやっているし、アジアはそれぞれの国でやっている。

日本でも、国際共同でやっていることは話し、追いついているところはアピールもしました(笑)。

とはいえ、複数の国がそれぞれ予算をもって一緒にやると大きなことはできるんですけども、タイミングが合わなかったりすると、総合観測みたいなことができないんです。

オーストラリアの南極観測隊ではしばしば砕氷船から海氷の上におりて観測作業をした。13カ国から集まった研究者たち。船も国際会議場といえる。

あるひとつのテーブルで、前回(2007年)のIPYの時には、8カ国の砕氷船が北極観測しようと北極海に入ったけれど、各国が自分の行きたいところだけに行ってしまいました。フタを開けてみたら、皆同じようなところに集まってしまったという話が出ました。もっとみんなうまく配置されていればいろいろな観測が効率よくできたのにと(笑)。

スポーツに例えるとわかりやすいと思うんです。全員がホームラン打とうとしている選手ばかりじゃなくて、ちゃんと送りバントもするし、犠牲フライもするし、そういうふうにしないと点は獲れない。チーム全員で点数獲るようなことをしないと。バントでも、全体に貢献した評価されることが大事なんです。そういったコーディネーションが前回のIPY以降に始まったので、今回もそれが話題になりました。

ただ、もう10年以上経ってしまっているので、昔何があったのかなどとか覚えている人が少なくなってしまうんですよね。そしてまた、シンポジウムではみんなでいっしょにやりましょう!と盛り上がるんですけれど(笑)。2032年の次のIPYにむけて、前回はこんなところは不完全だったというのをきちんと引き継いでいかないといけないですね。

<次回は、2025年1月23日に公開予定です>

榎本浩之(えのもと・ひろゆき)
榎本浩之(えのもと・ひろゆき)
国立極地研究所副所長、北極観測センター特任教授。専門分野は雪氷学、気象学、リモートセンシング工学。1983年に北海道大学工学部を卒業後、筑波大学で修士号(環境科学)、スイス連邦チューリヒ工科大学で博士号(自然科学)を取得。国際北極科学委員会の Vice-President(副議長)も務めている。