オーロラはエネルギーの高い電子によって起こされています。電子は地球の磁石(磁力線)に束縛されて動く性質があります。地球の磁力線は南極と北極とが結ばれています。そのために、オーロラは南極と北極の共役点(*1)では同じようなオーロラが見えるといわれていました。しかし本当に、南極と北極で同じオーロラが見えているのでしょうか、それとも違うのでしょうか?この答えはイエスでもあり、ノーでもあります。このことを長年観測し研究してきました。 4回のシリーズでは、オーロラ研究に興味を持ち始めた動機からアイスランドでの共役点観測に携わる経緯と、長年の観測で得られた興味深い観測例などを紹介します。 *1 地球固有の磁場中で1本の磁力線に結ばれた南北両半球の観測点のこと。
フランスとの共同観測
私が国立極地研究所に職を得て最初に関与した研究プロジェクトは、1976年〜1979年に行われた国際磁気圏研究計画です。極地研が担当するこの研究プロジェクトの一つが共役点観測であり、昭和基地とアイスランドを結ぶ磁力線の赤道面付近に、フランスが中心となった欧州が静止衛星を打ち上げての「衛星−地上共役点観測」です。この観測計画はオーロラ粒子が蓄積されている地球磁気圏の赤道面での衛星観測とその粒子が南北両半球に降り込んで極域の超高層大気と衝突して光る地上共役点でのオーロラ観測を直接比較することによりオーロラ発生機構の謎に迫るという極めて画期的なものでした。衛星が打ち上がる前年の1976年11月〜12月に、フランスとの予備観測がノルウエーのトロムソ郊外で行われ、極地研から平澤威男先生(元所長)と私が参加しました。
翌1977年にアイスランドのフッサフェルにおいてフランスとの本格観測が7月〜9月の2ヶ月間実施されました。極地研から勝田豊さんと私が参加し、地磁気脈動、自然電波とオーロラの観測を担当しました。人工ノイズを避ける為に宿泊施設から3キロメートルほど離れた河原付近に、フランス側が持ち込んだ移動式発電機と観測コンテナ・テントで行いました。

この観測がアイスランドでの共役点観測の出発点となりました。
アイスランドでの多点連続観測の始まり
アイスランドでの短期間の共役点観測を終えた後、アイスランドが昭和基地の共役点に位置している学問的・地理的に極めて稀な利点を活用して、アイスランドの多点で通年の連続観測ができる拠点を設置する計画が検討されてゆきます。
先ずは私が、1979年12月〜翌年3月に昭和基地の隣にあるソ連マラジョージナヤ基地に交換科学者として参加し、磁力計、誘導磁力計、リオメーター、自然電波の観測装置を設置して来ました。
ソ連基地から帰国した直後の第22次南極地域観測隊越冬隊 (1980年11月〜1982年3月)に参加し、昭和基地内と西オングル島テレメータ拠点に超高層現象モニタリング観測システムを新たに設置しました。このシステムの導入に当たっては情報処理棟を新築し、当時最先端のミニコンピュータを導入しました。


昭和基地での新観測システムの導入に呼応して、検討していたアイスランドで通年の共役点観測を実施するプロジェクトがアイスランド大学科学研究所との国際共同観測と位置づけられ開始されました。
1983年に実施した予備調査には國分征先生(東京大)、福西浩さん(極地研)と私が参加し、昭和基地の共役点に近いフッサフェル(HUSAFELL)、みずほ基地の共役点に近いイーサフヨルズル(ISAFJÖRDUR)、そしてマラジョージナヤ基地の共役点に近いチョルネス(TJORNES)を観測拠点とすることに決定しました。

翌年の本観測では、1984年8月〜9月に國分先生、荒木喬さん(弘前大)、藤井良一さん(極地研)と私の4人がアイスランドに行き、予定していた3観測拠点に全ての観測装置を設置しました。


3観測拠点に共通する磁力計、誘導磁力計、自然電波観測装置、リオメータは通年での連続観測をし、オーロラ光学観測の全天カメラ、TVカメラ、フォトメータは昭和基地との可視オーロラ共役点観測が可能な秋分時期の9月~10月に日本から観測者が観測拠点を訪れて稼働させました。
その後、1989年にはイーサフヨルズル観測拠点はアエデ島へ移設しましたが、交通が不便であるなどの理由から2009年に閉鎖しました。
観測を始めてから40年余りたった現在においても、フッサフェルとチョルネスの二カ所の観測拠点は順調に観測が継続されています。

近年ではオーロラ観測も自動化させて観測データはインターネットを介して即時に日本でも見ることができます。過去の共役点観測記録もWebサイトで公開されています。このサイトには共役点オーロラの一般向け説明欄もあります。
<次回は、2025年2月25日に公開予定です>

- 佐藤夏雄(さとう・なつお)
- 1947年新潟県上越市生まれ。国立極地研究所元副所長・名誉教授。専門はオーロラ現象の南北半球比較研究。南極観測越冬隊には15次、22次、34次の3回、夏隊には29次の1回参加。29次隊では夏隊長、34次隊では越冬隊長を務める。外国隊にはフランス、ソ連の2回参加。アイスランドにおける共役点観測、SuperDARN(国際大型短波レーダー網)、日中共同研究などの国際プロジェクトに携わる。