アイスランドのフッサフェル(左図)とチョルネス(右図)に現れたアーク状オーロラの例

オーロラはエネルギーの高い電子によって起こされています。電子は地球の磁石(磁力線)に束縛されて動く性質があります。地球の磁力線は南極と北極とが結ばれています。そのために、オーロラは南極と北極の共役点(*1)では同じようなオーロラが見えるといわれていました。しかし本当に、南極と北極で同じオーロラが見えているのでしょうか、それとも違うのでしょうか?この答えはイエスでもあり、ノーでもあります。このことを長年観測し研究してきました。 4回のシリーズでは、オーロラ研究に興味を持ち始めた動機からアイスランドでの共役点観測に携わる経緯と、長年の観測で得られた興味深い観測例などを紹介します。 *1 地球固有の磁場中で1本の磁力線に結ばれた南北両半球の観測点のこと。

大学と大学院

物理に全く興味の無かった私が、山形大学1年生の教養時代に受けた物理の講義(特にニュートン力学)が素晴らしく、生まれて初めて自ら積極的に参考書をむさぼり読み、知識を得る喜びを味わいました。2年生からは物理学科に進み専門的な知識を学びました。その後の進路として、物理を用いた研究者への道を選ぶことを心に誓いました。図書館や書店で色々な研究分野や研究対象を手探りで模索していると、神秘的で美しいオーロラは地球近傍で起こる自然現象であることを知り、その魅惑に引き込まれてゆきました。そしてオーロラ研究のできる大学院に進学することを決意し猛勉強をしました。幸い、オーロラ研究の中枢である東京大学地球物理学科に入学することができました。

南極観測隊参加と研究への路

オーロラは南極や北極で起こる現象であることから、南極観測隊に参加し自分の目でオーロラ観測をしてみたいという夢がありました。大学院博士課程1年の時にその夢が実現し、第15次南極地域観測隊越冬隊(1973年11月〜1975年3月)に参加することができました。最初に見たオーロラは、昭和基地にある観測棟の屋上で装置の取り付け準備の最中に頭上で起こったオーロラ爆発です。ピンク色に輝く光のカーテンが乱舞する姿は、今でも鮮明に残っています。南極から帰国した翌年の1976年7月に国立極地研究所に就職でき、オーロラ研究をする路が始まりました。

オーロラの共役点観測とは?

オーロラは高速の電子と地球の大気との衝突によって起こる地上100〜400キロメートル付近の発光現象です。その源は太陽です。オーロラ電子は磁力線に沿って運動する特性を持っており、光のカ−テンの縦縞の方向は地球の磁力線の方向を示します。

磁力線の方向を現す線状オーロラの例

地球には磁石があり南半球側から出た磁力線は北半球側につながっています。地磁気共役点の定義は、「1本の磁力線で結ばれた南北両半球の地上の地点」です。

電荷をもった粒子は地球の磁力線に巻き付いて南北半球の間を往復運動します。磁力線で結ばれた南北半球の地点が「地磁気共役点」です

極域で共役点の位置関係にある場所は北半球の地図上に南半球が同じ地磁気の緯度・経度になるように変形してプロットすると以下の図のようになります。

北半球の地図に同じ地磁気緯度・経度となるように南半球の地図を変形して重ね、オーロラ帯も記入した

オーロラが頻繁に出現するオーロラ帯で共役点観測が可能な場所は、地理的な制約から、昭和基地とアイスランドとの共役点ペアーだけです。例えば、ノルウェーの共役点は南極海の洋上に位置し、カナダの共役点は南極大陸の観測基地が存在しない厳しい環境の内陸に位置しています。

オーロラを起こす電子は磁力線に巻き付いて運動する基本的な物理特性を有しています。この性質により、地磁気共役点では似たようなオーロラが出現することが予測されていました。地磁気共役点で実際に起こるオーロラを同時に観測し、オーロラの類似性や違いを詳しく比較研究することにより、オーロラの発生機構を究明する。これが学問的な意義であり、私たちの研究目的でもあります。

昭和基地とアイスランドの共役点でオーロラが観測される模式図。オーロラを起こす電子が磁力線に沿って動き、加速域を通過する際に高いエネルギーを得て、明るいオーロラが観測されます

アイスランドと昭和基地でオーロラの同時観測を可能とする条件

昭和基地とアイスランドは地磁気共役点の位置関係になっていますが、オーロラの同時観測を成功させるためには数々の問題をクリアしなければならなりません。まずは、南北両観測点の上空が同時に暗夜になる地理的条件が必要です。その条件は秋分・春分時期の9月と3月付近に限られます。昭和基地とアイスランドの地理緯度・経度の関係から、同時に暗夜を迎える時間は最長でも4時間程度です。

昭和基地とアイスランドのチョルネスの高度110キロメートルの地点が日没になる時刻の季節変化の図。秋分時期に縦線を入れましたが同時にオーロラ観測が可能な暗夜になるのは4時間程度

また、オーロラは高さが90キロメートル以上の上空で光っていることから、雲が無く、星が見える晴れわたった夜空である必要があります。これらが全て整った条件の下で、さらにオーロラが出現しなければなりません。実際には好天の同時性が最も厳しい条件であり、その時の天候の運・不運に左右されてしまいます。

アイスランドは北海道と四国を合わせたほどの広さで、周囲には暖流が流れています。この影響で冬の寒さはそれほど厳しくなく、オーロラ帯に位置する場所としては最も暖かい地域です。しかし、晴天は長く続きません。過去の観測実績によれば、月の光の影響を受けない新月付近の2週間程の集中観測期間中において、同時に観測できたのは平均的に2晩ほどです。この困難さは、ある意味では特別な条件下で起きる特別な自然現象を観測する宿命ともいえます。

このオーロラ同時観測を可能とする条件を満たすアイスランドと昭和基地においてオーロラ現象の観測装置を設置するプロジェクトこそが、私が最初に携わった研究プロジェクトでした。

<次回は、2025年2月11日に公開予定です>

佐藤夏雄(さとう・なつお)
佐藤夏雄(さとう・なつお)
1947年新潟県上越市生まれ。国立極地研究所元副所長・名誉教授。専門はオーロラ現象の南北半球比較研究。南極観測越冬隊には15次、22次、34次の3回、夏隊には29次の1回参加。29次隊では夏隊長、34次隊では越冬隊長を務める。外国隊にはフランス、ソ連の2回参加。アイスランドにおける共役点観測、SuperDARN(国際大型短波レーダー網)、日中共同研究などの国際プロジェクトに携わる。