Yamato-86789 全体的に黒く、大きなクラックが無数に入っている。右側に写る黒いキューブは1㎝角。

隕石を眺め、愉しむ、癒しの時間。国立極地研究所・南極隕石ラボラトリーの中藤亜衣子・学術支援技術専門員が、1万7,000個以上の南極隕石コレクションの中から、個性あふれる隕石を紹介していきます。

シリーズ最後にご紹介するのは、Yamato-86789隕石で、これは第27次南極地域観測隊により南極やまと山脈付近で発見された真っ黒な炭素質コンドライトです。これまでの2回とは異なり見た目は地味な隕石ですが、私の学生時代からの研究テーマでもあり未だ多くの研究者が調べ続けている、科学的に複雑で魅力あふれる隕石です。

Yamato-86789は丸いカンラン石や輝石からなるコンドリュールと、それ以外の約8割を占めるマトリクスからなっています。マトリクスはおもに粘土鉱物と有機物で構成されており、黒い色はこれらの成分に由来しています。粘土鉱物を高分解能の電子顕微鏡でみると、その外形を残しつつも非常に細粒な無水のケイ酸塩鉱物に変化しています。この観察結果から読み取れることは、この隕石の母天体はかつて水が液体として存在しうる環境にあったこと、その後に粘土鉱物が脱水分解し、微細な鉱物に変化するような加熱イベントを経験したことを示しています。また全岩の酸素同位体組成からは、かつて存在した水の組成が、他の隕石グループと異なっていたことが分かります。水の組成の違いは、その水の起源や隕石母天体が集積した時空間の情報を反映していると考えられます。
以上のことから、この隕石を含む複数のYamato隕石について、これまでの隕石グループとは異なる進化史を辿った、新しい炭素質コンドライトCYコンドライト(YはYamatoから由来)というグループが提唱されました。

ダイヤモンドワイヤーソー全景。 研究者から申請された研究計画書に基づき、必要量に応じて隕石試料を分割する。他に超硬合金製タガネとハンマーを用いたチッピングや、ダイヤモンドの刃を回転させるアイソメット切断機など、用途や試料に応じて最適な手法を選択する。
ダイヤモンドワイヤーソーにセットされたYamato-86789。
ワイヤーの太さは直径約250μm。隕石によって硬度やサイズ、形状もさまざまであるため、試料の固定方法や切断箇所、切断スピードなど、さまざまな条件を考慮して切断している。

炭素質コンドライトはこれまでに発見された隕石全体の約3.5%にあたる、貴重な試料です。多くが現在の火星と木星の間に分布する小惑星帯から来たとされています。小惑星帯には惑星を作る時に、取り込まれなかった小惑星が無数に散らばっており、その多くが炭素を多く含む暗い天体、C型小惑星(Carbonaceous type)です。C型小惑星はそのスペクトル(色)から炭素質コンドライト隕石の起源であると考えられます。したがって、炭素質コンドライトを研究することで小惑星帯を代表する物質、ひいては太陽系の原材料物質を理解することができるのです。Yamato-86789のような新しい隕石種の発見は地球の水や有機物、われわれ生命の材料の一端を明らかにする鍵となり、隕石研究の醍醐味であると言えるのです。

中藤亜衣子(なかとう・あいこ)
中藤亜衣子(なかとう・あいこ)

国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー 学術支援技術専門員 。「炭素質コンドライト母天体の熱進化」をテーマに隕石研究に取り組んできました。専門は惑星物質科学。今は隕石の聖地、極地研にて毎朝隕石庫の隕石たちを眺めるのが癒しの時間です。