隕石を眺め、愉しむ、癒しの時間。国立極地研究所・南極隕石ラボラトリーの中藤亜衣子・学術支援技術専門員が、1万7,000個以上の南極隕石コレクションの中から、個性あふれる隕石を紹介していきます。
流れ星として地球に届けられる隕石は、私たちが手に入れることができる宇宙からの貴重な贈り物です。南極隕石ラボラトリーは、世界有数の隕石キュレーション施設として、総数1万7,000個以上の南極隕石コレクションを誇っています。ここでは南極地域観測隊の集めた隕石試料が、重量やサイズ計測、写真撮影、分類などが行われた後、温湿度管理された隕石保管庫(下)の中で大切に保管されています。
隕石保管庫に入ってすぐ右側には展示スペース*1が設けられ、ラボを訪れる学生や研究者などが見学することができます。その中で特に目を引くのが、今回ご紹介するYamato 000593です。極地研の一般公開でも毎年この隕石の一部*2を展示しているので、既に目にしたことがある方もいるかもしれません(※)。
(※)【2024年9月18日 更新】より正確な内容とするため、以下の点を更新しました。
・本文の変更
(更新前)極地研の特別公開でも毎年展示しているので、既に目にしたことがある方もいるかもしれません。
(更新後)極地研の一般公開でも毎年この隕石の一部*2を展示しているので、既に目にしたことがある方もいるかもしれません。
・*2を追加
この隕石は第41次南極地域観測隊により南極やまと山脈付近で発見された火星隕石で、ナクライトという火星隕石の種類では世界最大サイズ。なんとその大きさはラグビーボールほどあります(29x22x16㎝)。ナクライトは隕石の中でも貴重な種類であり、Yamato 000593は世界で4例目、南極産ナクライトとしては初めての発見でした。発見当時の様子を当ラボの今榮直也助教に聞くと「氷の上で緑色が映えていた。見たことのない隕石だ!と思った」と教えてくれました。地球大気圏に突入する際に外側が溶けてできた黒い溶融被膜に覆われ、その隙間から主な構成鉱物である普通輝石の暗緑色が覗いています。見ているだけでも大迫力で、とても美しい隕石です。
これまでの研究から、Yamato 000593には水と反応してできる粘土鉱物が含まれていることが分かっています。その水の成分は地球上の水とは異なるため、かつて火星に水が存在したことを示唆する証拠の一つとされています。隕石は私たちが宇宙の謎に迫るための重要な手がかりであり、火星の過去や太陽系の歴史を解き明かすための重要な役割を果たしています。
*1 一般の方向けの展示スペースではありません。
*2 極地研では採取した試料の一部を切り取り、研究や教育に利用しています。一般公開で展示している火星隕石は、Yamato 000593隕石から展示用に予め切り出したピンポン玉大の試料です。
<次回は、2024年4月23日に公開予定です>
- 中藤亜衣子(なかとう・あいこ)
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国立極地研究所 南極隕石ラボラトリー 学術支援技術専門員。「炭素質コンドライト母天体の熱進化」をテーマに隕石研究に取り組んできました。専門は惑星物質科学。今は隕石の聖地、極地研にて毎朝隕石庫の隕石たちを眺めるのが癒しの時間です。