アイスランドと昭和基地の観測点でオーロラの形状が次々と変化する様子

オーロラはエネルギーの高い電子によって起こされています。電子は地球の磁石(磁力線)に束縛されて動く性質があります。地球の磁力線は南極と北極とが結ばれています。そのために、オーロラは南極と北極の共役点(*1)では同じようなオーロラが見えるといわれていました。しかし本当に、南極と北極で同じオーロラが見えているのでしょうか、それとも違うのでしょうか?この答えはイエスでもあり、ノーでもあります。このことを長年観測し研究してきました。 4回のシリーズでは、オーロラ研究に興味を持ち始めた動機からアイスランドでの共役点観測に携わる経緯と、長年の観測で得られた興味深い観測例などを紹介します。 *1 地球固有の磁場中で1本の磁力線に結ばれた南北両半球の観測点のこと。

今回はアイスランドと昭和基地との共役点で同時に観測されたオーロラの例について紹介します。

1. 極めて良く似たオーロラの例

最初の例は、私が携わった30年間のオーロラの共役点観測のなかで特別に良く似たオーロラがアイスランドのチョルネスと昭和基地で長時間出現した、2003年9月26日のイベントです。

この日に起こった共役点オーロラの全容が理解できるように全天テレビカメラで撮影したスナップショット写真を下図に示しました。

2003年9月26日の夜に全天TVカメラで撮影された特徴的なオーロラのスナップショット写真。両観測点でオーロラの形状が次々と変化する様子がよく似ています

オーロラの形や明るさが変化する様子は、一見して、非常に良く似ていることが解ります。オーロラのタイプは、 (a)は弱い東西方向オーロラ、(b)渦状構造を伴う活発化した東西方向オーロラ、(c)オーロラ爆発の開始時、(d)オーロラ爆発の最大期、(e)南北方向オーロラ、(f)は東西方向に移動するオーロラです。これら多彩なタイプのオーロラが南北半球で同時に観測されました。

オーロラが爆発的に発達する様子を10秒間隔のスナップショットで示しました。両観測点において、明るいオーロラが同じように発達・拡大しながら強い渦状のサージ構造になる様子が良くわかります

上図にはオーロラが爆発的に発達するわずか1分30秒の間の様子を10秒間隔の画像で示しました。オーロラ爆発が両半球で同時に始まり、オーロラが強烈に拡大しながら渦状のサージ構造に発展するオーロラ爆発の様相は南北半球の両地点で極めて良く似ています。

2. よく似たオーロラから似ていないオーロラになった例

1988年9月12日に昭和基地とアイスランドのフッサフェルにおいて、よく似た形状のオーロラが似ていないオーロラ爆発へと変化する例を下図に示しました。

良く似ていたオーロラが昭和基地側でのみオーロラ爆発へと時間発達する様子を示した図

この図の最初の写真はアイスランドと昭和基地の両観測点で非常に良く似た孤立型オーロラです。興味深いのは、このオーロラの時間発展の様相です。2枚目の10秒後の写真では、昭和基地側でのみ極側方向に新たなオーロラが出現してきました。これ以降の写真からは、昭和基地の極側方向のオーロラが活発に発達し、最後の写真ではオーロラ爆発が起こっています。一方、アイスランド側のオーロラを見ると、オーロラの発達はほとんど起こっていません。このイベントはオーロラの爆発現象が南半球側だけで起こったという興味深い観測事実です。

3. 全く似ていないオーロラの例

2004年9月14日に全く似ていないオーロラが観測されました。

南北半球間で全く似ていないオーロラが現れた例

上図にこのオーロラの時間発展を示しました。南北方向オーロラは昭和基地の東側から出現し、次第に西向きに動いています。一方、アイスランド側では弱い東西方向のアーク状オーロラが南側(低緯度側)に移動しつつ消滅しました。極方向の地平線付近に現れている少し強い東西方向のバンド状オーロラは形状も強度もほとんど変化していません。このように、このイベントは南北半球間で全く異なる形状のオーロラが現れた例です。この南北方向オーロラは太陽風が運んで来る磁場の方向が急に変化している領域が地球を通過する際に片半球でのみ起きると考えられていますが、ここではその説明を省きます。

<次回は、2025年3月4日に公開予定です>

佐藤夏雄(さとう・なつお)
佐藤夏雄(さとう・なつお)
1947年新潟県上越市生まれ。国立極地研究所元副所長・名誉教授。専門はオーロラ現象の南北半球比較研究。南極観測越冬隊には15次、22次、34次の3回、夏隊には29次の1回参加。29次隊では夏隊長、34次隊では越冬隊長を務める。外国隊にはフランス、ソ連の2回参加。アイスランドにおける共役点観測、SuperDARN(国際大型短波レーダー網)、日中共同研究などの国際プロジェクトに携わる。