今回ご紹介する極地観測の現場は、グリーンランド。日本ではみられないダイナミックな極域のフィールドで観測・研究に取り組む極地研の研究者たち。彼ら・彼女らが出会った現場の風景と、そこでの研究や発見を綴るエッセイです。
- 吉田 淳(よしだ・あつし)
- 国立極地研究所 北極観測センター特任助教。研究対象はエアロゾルをはじめとした環境中の微粒子です。大気光学現象や微粒子の光測定など、微粒子の光散乱全般が好きです。地上基地・船舶・航空機といったプラットフォームを利用して北極・南極問わず現場観測を行うことで、微粒子の動態や気候影響を調べています。
グリーンランドと聞くと、一面が氷床に覆われた真っ白な世界を思い浮かべるかもしれません。しかし、夏季のグリーンランド南部の一部では地表が露出し、植生が広がり、その名の通り緑あふれる景観が見られます。このような露出域は、大気中に浮遊する微粒子であるエアロゾルの重要な供給源であることが考えられます。エアロゾルは地球のエネルギー収支や雲の形成に重大な影響を与えますが、グリーンランド南部においては観測が圧倒的に不足しています。今回、當房豊准教授(国立極地研究所)のお誘いにより、グリーンランド南部に位置するナルサルスアークとナルサークにて観測を行う機会を得られました。

2025年8月30日、東京から4回のフライトを経てナルサルスアーク空港に到着しました。ナルサルスアークに近づくにつれ雪化粧が消え、地表に緑が目立つようになりました。衛星画像からある程度予想していたものの、実際に自分の目で見ると、従来の「白いグリーンランド」のイメージとは大きく異なり、強い印象を受けました。

ナルサルスアークでの目的は、氷河(Kiagtût sermiat)の末端付近に行き、エアロゾルの起源となる微粒子を採取することです。ホテルから自転車で行けるところまで進み、その後は徒歩で山を登ったり下ったりしながら氷河に向かいました。気温は10度弱とそこまで寒くなく、快適に進むことができました。私は氷河のフィールド調査は初めてでしたが、植竹淳准教授(北海道大学)の案内のもと無事に目的地にたどり着くことができました。

氷河を目前にした際の第一印象は「汚れている」というものでした。飛行機からの景色で予想はしていたものの、氷河のいたるところが黒ずんでおり、傍らを流れる川の水は非常に濁っていました。氷河が地面を削ることでできる岩石の破片、細かい砂粒、泥が要因の一つと考えられます。

今回のターゲットは、この「汚れ」の原因となる物質の中でも、特に氷河の侵食作用によって細粒化した鉱物微粒子です。目に見えないほど小さい微粒子(髪の毛の太さの数十分の一程度)は、上空に巻き上げられ大気中に浮遊して気候に影響を与える可能性があります。特にこの氷河由来の鉱物微粒子は、雲の中で氷の結晶の形成を強力に促進する可能性が指摘されており、北極圏の雲の生成において重要な役割を果たしているかもしれません。採取した微粒子は、今後実験室にて様々な機器を用いてその物理的・化学的特性を分析する予定です。

【連載】わたしの現場
次の記事|緑豊かなグリーンランドでの大気観測(後編)<順次公開予定です!お楽しみに。>