今回ご紹介する極地観測の現場はアラスカのフェアバンクス。日本ではみられないダイナミックな極域のフィールドで観測・研究に取り組む極地研の研究者たち。彼ら・彼女らが出会った現場の風景と、そこでの研究や発見を綴るエッセイシリーズです。
- 田邊智子(たなべ・ともこ)
- 国立極地研究所 北極観測センター特任助教。専門は森林生態学。樹木生産量が年により変動する要因の解明に取り組む。雲を眺めたり、梅や芋を干したり、少しずつ変化する何かを体感する度に感動する。一見静止しているように見える木も、内部では炭素が運ばれ年輪が作られている。ひとつの木でも、良く伸びる枝とあまり伸びない枝があっておもしろい。
緯度の高い地域でも、凍土のうえに森林が分布しています。夏があっという間に終わってしまうため、植物が成長できる期間が短く、長く生きている木であっても幹が細いことが高緯度に広がる森林の特徴です。
北緯67度、アラスカのほぼ真ん中に位置するフェアバンクスは冬に土が凍ります。夏になると地表から土が融け、冬に再び凍結することを繰り返す場所で木々は根を張っています。地下の分厚い凍土が一年中融けない場所もところどころにあり、永久凍土の不連続分布域とされています。

町から40キロメートルほど離れた場所にアラスカ大学の実験林があります。この地域はクマ(グリズリーやブラックベア)の生息域と重なるので、食べ物は車に置いて、調査地には持って行きません。お昼を食べるときは車まで戻ります。

樹木は、大気から取り込んだ炭素を材料に成長します。幹や枝を作るために使われた炭素は、枯れて分解されたり、火災で燃えて二酸化炭素として大気に戻るまで陸域に留まります。そのため森林は、大気中の炭素をしばらく陸に留めておくという重要な役割を担っています。わたしたちは、北米大陸の北方林の広域に生育する常緑針葉樹クロトウヒ(Picea mariana)を対象に、森林が蓄積する炭素量が年によって大きく変動する理由の解明に取り組んでいます。またその過程で、樹木が一年に蓄積した炭素量をより正確に見積もるための指標の再検討をしています。北方林を取り巻く炭素収支の仕組みが分かれば、陸域の炭素循環の推定精度は各段に上がり、より確かな気候予測ひいては具体的な政策提言の基盤となります。
2025年は、大規模な森林火災がフェアバンクス近郊でいくつも発生した年でした。森林火災は木の生活史と深く結びつき、森の世代交代には正の効果をもたらします。たとえばクロトウヒの球果(まつぼっくり)は普段固く閉じていますが、火災によって高温に曝されることで開き、中の種子が散布されます。一方で、近年の地球温暖化によって森林火災の高頻度化や大規模化が進んでいます。その結果、木がせっかく蓄えた炭素が陸に留まる期間は短くなり、より早いサイクルで炭素が大気へと戻ってしまうなど、北方林をとりまく炭素循環は急激に変化しています。

調査を終えた帰り、乗り継ぎ地のシアトル空港でもいろいろな発見がありました。まず驚いたのは、堆肥化できるごみを分けて回収する仕組みがあることです。購入したコーヒーの蓋も堆肥化可能な素材でできていました。また、水筒用の給水機がたくさん設置されていることも新鮮でした。ごみをできるだけ減らせるよう、社会の仕組みが少しずつ変わりつつあることを感じるとともに、自然のサイクルに沿った選択肢が身近にいくつもある環境は良いものだと思いながらの帰路となりました。

【連載】わたしの現場
次の記事|森を通して地球の炭素循環を考える(後編)<順次公開予定です!お楽しみに。>